皆さんは「ホラー」といえばどんなものを想像しますか?
呪いのビデオ、心霊写真、ジェイソン、エクソシストなどなど
思いつくのは人それぞれかと思いますが、ジャンルとしていくつかに大別することができます。例えば、
心霊系、スプラッター系、ジャンプスケア(びっくりどっきり)系
といった感じです。
今回はそんな中でも「モキュメンタリー」というジャンルについて紹介・所感を書きたいと思います。
モキュメンタリー
どんなジャンル?
「モキュメンタリー*1」とは、嘘の物語をドキュメンタリー風に構成する表現技法を指します。ホラーに限られたジャンルではありません。Wikipediaには次のように紹介されています。
虚構の物語を、あくまでも事実を伝えるドキュメンタリーとして構成する映像手法である。そのため、ドキュメンタリーの慣例に則って架空のインタビューやニュース映像、関係者の証言などが織り交ぜられてゆく。また、発掘されたビデオ映像という形態で、逆に一切のテレビ的な構成を排する作例もある。内容はコメディからホラーまでと幅広い。
さて、ホラー作品をドキュメンタリー風に作品加工することは可能なのでしょうか。
だって、有名どころのホラーってどことなく「非日常すぎる」と感じることはありませんか?
日本のホラー映画の代表格である「リング」を例として映画のプロットを書き出してみます。
- 見たら1週間以内に死ぬと言われる呪いのビデオについて、雑誌記者である主人公は調査を始める。主人公は調査で発見したビデオを見てしまい、直後から起きた不可解な現象からこのビデオが本物であることを確信する。
- 元夫に協力を依頼しビデオの謎の解明に乗り出すが、そんな中、二人の間の息子が呪いのビデオを見てしまう。
- ビデオの謎を少しずつ解明していき、このビデオが「山村貞子」という霊能力者によって生み出されたことが判明。貞子の詳細について調べ、最終的に(とある井戸の中から)骸骨となった貞子の遺体を発見し、ビデオの謎について解決した(ように思われた)。
- 後日、元夫のもとに貞子が出現し呪い殺される*2。主人公は自分だけが助かった理由を悟り、息子の命を救うべく自分の父を犠牲にすることを思いつく。
以上が「リング」の大まかなプロットです。どうでしょう?改めて文章にすると出だしの部分で非日常的だと思いませんでしょうか。
実際、「呪いのビデオ」なんて言葉はホラー作品のなかで見かけることはあっても、巷での噂や世間話に出てくることなんて滅多にありません。
つまり、怖いと評価されているホラー作品の中でも、プロットの起承転結に関しては「起」の時点で僕たちの日常では見かけない(ありふれていない)ものもあるということです。
さて、前振りが長くなりました。
もう薄々勘付いておられるかもしれませんが、ホラー作品をドキュメンタリー風に加工する一手として、起承転結の「起」の部分をいかに日常に近づけるかという方法が考えられます。
当たり前といえば当たり前ですが、これってなかなか難しいプロット作成だと思います。
所感については最後に書くとしてまずはモキュメンタリーホラーの作品をいくつかご紹介します。まずは小説から。
三津田信三さんの小説
三津田信三さんというホラー作家がいます。上の写真に写っている2冊はどちらも僕が読んだ三津田さんの著作です。この本ですが、作中の主人公自身が三津田信三さんであり、自分自身の視点を通した文体となっています。
どこかの知らない誰かの文章ではなく、作者自身が怪異に巻き込まれていくというスタイルのため作品全体が妙に現実味を帯びます。
また、作中で読者に対して「注意喚起をする」といった手法も盛り込まれており、作品を読んでいる読者も無理やり作中(=怪異に近い側)に引き込まれるという面白さもあります。
プロットと文体で「非日常感」を排除するような表現をしていると捉えてもいいかもしれません。
どちらの本も面白い(=怖い)ですが、もしよければ読んでみてください。1冊目のおすすめは左側です。感想お待ちしております。
ってことで次はモキュメンタリーホラーの映像作品を紹介します。
フェイクドキュメンタリーQ
2021年8月よりYouTubeにて公開されている動画作品群です。公開されている作品数は全部で20本。今後も新作が公開される予定ですが公開時期は未定かつ不定期となっております。
・・・・とりあえず、まあとりあえずですね、20本もあるんだから何か1本でも見てよ。
え?怖いから見ない?
・・・
・・・
・・・・怖いから見るんだよ!
じゃあいくつか紹介しますね。
封印されたフェイクドキュメンタリー - Cursed Video
20本の作品群の中で1番最初に公開された作品です。*3「『見たら死ぬビデオ』の噂を確かめるために調査を始めたテレビ制作会社」の話です。
ありがたいことにここまで僕のブログを読んでくださってる方は「さっきのリングの話と違うくない?見たら死ぬビデオっていうネタが非日常的だしドキュメンタリー要素本当にあるの?」と思われるかもしれません。
確かにきっかけは非日常的ですが、作品全体は番組スタッフが関係者にインタビューするという体をとっており、「リング」にはない「身近な出来事感」があります。
20分弱の動画なので気軽に見てください。急にびっくりするような描写や幽霊が出てくるといった描写はありません。
オレンジロビンソンの奇妙なブログ - Obscure
さて続いてはとあるブログが題材となっている動画です。誰もが書くことができて、誰もが読むことができる「ブログ」というものを切り口にすることにより、これまた「身近な出来事感」を醸し出しています。
動画は13分ほど。
気軽に見ちゃってください!お菓子食べるついでぐらいで(ノ≧ڡ≦)
話の流れですが「写真加工のアルバイトに従事している学生が、偶然請け負った妙な依頼のせいで“何か”に巻き込まれる」という感じです。巻き込まれてからブログ更新が途絶えるまでの様子が綴られています。
世にはごまんとブログがありますね。どこかには一つぐらい”こんなブログ”があるかもしれません。
プランC - PLAN C
僕が聴いたこと見たことを後悔した作品です。人によるかもしれませんが、僕はあまりにも怖すぎて動画見終わったときは心臓バクバクでした。
いや、お化けは別に出てこないんですよ。
ただ、起きていることの生々しさ+終盤に起きる想定外の事象のせいで最後めっちゃ怖かったです。
以下に話のプロットを書きますが、グレー色の薄い文字で書くので心の弱い方は無視して次の黒文字まで飛ばしてください。
志願者が集まってから練炭自殺をするまでの一部始終の録音データ、という感じです。
録音データという題材を使っています。これは先ほど紹介した「怪談のテープ起こし」にも共通しているものです。かなりセンシティブな題材でもありますが、日本では毎年2万人と言われているので”どこかにはこういう音声データもあるかもしれない”と思えなくもないです。
ただし、この動画の落ちはあくまでも「終盤に起きる想定外の事象」です。
全体に共通していること
フェイクドキュメンタリーQで公開されている作品群の特徴として「解明しきれない謎が残される」という点があげられます。これは三津田信三さんの著作にも共通するのですが、作中で起きた現象のすべてに回答が与えられているというわけではありません。
「もしかしたら誰かの意図的な仕業?」
「それとも幽霊?怪異?」
「怪異だとしても一連の現象の関係性は?」
といった感じで推理要素が残されます。(最後に書きますが)この点が怖さを押し上げてるポイントでもあります。
イシナガキクエを探しています
以上がモキュメンタリーホラーの紹介です。作品はほかにもたくさんあります。
例えばフェイクドキュメンタリーQのディレクターである皆口大地さんも手掛けている作「イシナガキクエを探しています」が最近テレビで放映されて話題となりました。
Tverで全4話公開されています。(4話目はテレビ放映されずTverのみとなっております。)
こちらの作品は行方不明者公開捜査番組という設定が下地にあります。ある女性を捜索する中でいくつもの謎が浮かび上がり、そして視聴者は「その背後には『何か人ならざる者』が潜んでいるのではないかと思ってしまう」ような不可解な証拠を見せられます。
視聴者は真相にたどり着いて納得したい(できれば安心したい)がために、断片的な事実をつなぎ合わせようとあれこれ妄想します。
最後に
さて、まとめることにしましょう。
今回はモキュメンタリーホラーというジャンルを紹介しました。
ホラーをドキュメンタリー風に表現した作品のことです。
ドキュメンタリーっぽくすることにより、本来は非日常的である出来事を日常にできるだけ近づけることができます。
そしてさらに、作中ですべての謎を明かさず読者・視聴者の考察が入ることにより、普段だったら怖いものから距離を取ろうとする読者・視聴者みずからが怪異(怖いもの側)に近づいてしまうという手法もとっています。
面白いですよね。
人間って幽霊とかお化けを基本的には信じずに世の中の現象を説明しているにも関わらず、残された謎が解明できない場合は「怪異」というものにすがって説明しようとしてしまうそうです。
それだけ人間って「わからないものが怖い」と思ってしまってるんですね。
今日は怖い夢を見なければ助かりますが。では。